担当する作品・アーティストを心から愛し、奔走するプロデューサーの信念
アニメの宣伝や、声優アーティストの音楽制作・パッケージ制作・ライブ演出、宣伝まで総合プロデュースを手掛ける岩撫 優作。ファン目線に立ち、作品やアーティストへの深い理解とリスペクトを忘れない彼が立てる施策の数々は、どんな背景や想いから生まれてくるのか。その言葉と歩みから探ります。
アイドルの“推し活”に全力投球した学生時代
ポニーキャニオンのアニメプロデュース3部 P’s Recordsにて、アニメ作品の宣伝や、声優ユニット・harmoeの音楽制作・パッケージ制作・ライブ演出・宣伝に至るまで総合プロデュース、声優グループ・DIALOGUE+のプランニングなどを手がける岩撫 優作。幼いころからテレビっ子だった彼は、自然とエンターテインメントに惹かれていきました。
岩撫
ずっとテレビがついているような家庭で、小さいころからお笑い番組やバラエティ番組をたくさん観ていたんです。中でも夢中になったのが、女性アイドルグループ。
小学生のころ、一度だけ親に横浜アリーナ公演のチケットを取ってもらってライブを観に行ったんですけど、そのときのファンの盛り上がりとか一体感がすごく楽しくて。それが、僕がエンタメの仕事をめざすうえでの強烈な原体験になりました
中学生になってからはお小遣いを工面してアイドルのイベントに行くようになり、高校生になってからはさまざまなアイドルグループのライブや握手会に頻繁に通うようになります。中学生のころに抱いた“エンタメに関わる仕事に就きたい”という夢を叶えるため、メディア学を学べる大学に進学しました。
岩撫
エンタメ関連の企業に就職するためにはとにかく勉強をするしかないと思って、部活で野球をしたり、“推し活”をしながらも、中・高と勉強はしっかりしました。
ただ、大学生になってからはアルバイトで稼いだお金でどれだけCDを買ったり、行きたいイベントに行ったりできるか、そのことばっかりを考えていた気がします(笑)。アイドルを応援するのが自分の生きがいで、今でいう“推し活”に全力投球していました
そうした“推し活”を通して得たものは、作品やアーティストに関わる現在の仕事に生きていると言います。
岩撫
地下アイドルの現場では、同年代だけじゃなく年上のファンの方と仲良くなれたのも楽しかったんです。推しに会いに行くのはもちろん、“好き”を共有できる仲間に会いに行くことがモチベーションのひとつで、そこでの経験は確実に今の仕事にも役立っています。
熱心なファンが連れてきた友だちがファンに加わったり、SNSで発信してそれが誰かの興味を惹いたり、全国各地に遠征したり聖地巡礼をしたりして盛り上がりがどんどん大きくなっていく……いわゆる“オタクコミュニティ”は、アーティストが大きく成長していくため、長く活動していくために欠かせないものなので、ファンの気持ちや目線は忘れてはいけないなと思います
好きなことを仕事にしたい!という情熱を持ってポニーキャニオンへ
志望大学に入学し、メディア学を学んだ彼は、エンタメ業界をめざし就職活動を開始。縁あって、ポニーキャニオンに入社することとなりました。
岩撫
エントリーシートには自分がいかにアイドルを推してきたかを書いて、三次面接では『ポニーキャニオンのアイドルがどうやったらもっと売れると思うか?』という質問に、自分としては思い残すことなく答えることができたんです。推し活をしてきた熱量や、好きなことを仕事にしたい!という情熱が、きっと伝わったんだと思います
入社後、最初に配属されたのはアニメの部署でした。
岩撫
『けいおん!』『進撃の巨人』などのヒットを経て、ちょうど当社のアニメ・アニソンがすごい!と盛り上がっていたタイミングで、ありがたいことにアニメ・声優アーティストの宣伝やアニソンシンガーのプロデュースをやらせてもらうことになりました。
アニメ作品は3年も4年も前から計画して、関わる人数や金額も大きくて……自分が想像していたよりもずっと大きな規模でひとつの作品が出来上がっていく過程を途中からでも見ることができて、知ること、学ぶことがたくさんありました。
また、ラジオ局に足を運んで所属アーティストの楽曲をかけてもらうことや、ゲストブッキングを直談判したり、雑誌やWEB媒体には記事にしてもらえるように交渉をしたりという宣伝活動のほか、気づけばイベントの準備や運営なども任されるようになりました
すると、入社からわずか1年、思ってもみなかった展開が待っていました。
岩撫
ある女性アーティストの音楽制作以外、宣伝プランニングのほかパッケージデザイン周りやミュージックビデオ制作、ライブ企画・演出も全部自分が担当することになったんです。右も左もわからない新人ですから、先輩方に助言をいただきながら、とにかく無我夢中で動きました。
ライブをする際には、ライブチームと連携しながら会場を探して、セットリストを決めて、音響や照明のプランも立てて。とにかく現場に出て、失敗は次回の教訓として自分に刻んで。その繰り返しですごく鍛えられたし、プロデューサーとしてやるべきことを習得できたと思います。
その後、営業部で営業と販売促進の仕事もしたんですが、社内のシステムや商品の流れを学べたことも、すごくよかったと思います。担当するアニメショップに足を運んで、アニメ業界の流行を肌で感じたり、販売促進のアイデアの種を拾ったり、店舗の方とのコミュニケーションを通して信頼関係を築くことの大切さを知ったり。営業販促においても、自分の個性は出せるんだという気づきも得ました
独自の世界観をまとう声優アーティストをプロデュース
アニメの制作宣伝部に異動した彼は、現在、アニメ作品の宣伝のほか、女性声優8人からなるグループ・DIALOGUE+のプランニングや、岩田 陽葵と小泉 萌香による声優ユニット・harmoeの総合プロデュースを担当しています。
岩撫
harmoeは、“OTOGI×ELECTRO”をコンセプトにまるで舞台やアニメを見ているような“おとぎ話”の世界を、ダンスポップミュージックにのせて発信しているユニットです。ユニット立ち上げのタイミングからチームに入り、最初はパッケージ周りの制作がメインだったんですけど、シングル2作目からは自分で作家さんを選んで、『こういう曲でお願いします』という発注もできるようになりました。
僕の場合、“こんな楽曲を作りたいなプレイリスト”にいくつもストックがありまして。次のリリースに向けて方向性が固まったら、そのリストの中から相性のよさそうな作家さんを選んで、制作会社に所属している場合は会社に問い合わせをしますし、個人の方だったらSNSに書いてあるメールアドレスに直接アプローチします。
音源にしろ、アートワークにしろ、ミュージックビデオにしろ、ライブにしろ、世界観をいかに作り込んでいくかということを毎回頭をひねりながら考えるのは大変ですけど、徐々に形になっていく過程がすごく楽しいんです。自分は制作の仕事が好きなんだなって心から思います
2025年8月にはharmoe 4th LIVE「siki」を東京・LINE CUBE SHIBUYAで2日間開催、美しいストーリーテリングや鮮烈な演出も話題となりました。
岩撫
「サンチマンタリスム」という、「羅生門」をテーマにしたおどろおどろしい楽曲がありまして。歌詞も不気味な雰囲気で、転調や拍の変化を繰り返しながら、どんどん展開していくミュージカルっぽい曲です。
この楽曲を作った時点で、4thライブの目玉になるだろうと思ったので、そこからライブ演出を考えて、自分で動画編集ソフトを使って演出コンテ的な参考映像を作りました。照明・レーザー・本人&ダンサーの動きなどの演出イメージは、その映像を元に事前に各セクションのスタッフと共有して、振り入れ、ゲネプロ(本番直前に行われる最終的な通し稽古)、当日リハで細部に渡って詰めていきました。
そうして迎えた本番では、曲が始まる前に小泉さんが「羅生門」のひと節を動きをつけながら語る演出をして、そこから曲に入り、すべてが完璧に噛み合ったんです。会場がどよめく中、震えるような感動を覚えました。お客さんの拍手が止まないみたいな経験はこれまで何回かあるんですけど、この記憶はこれから先も色濃く残ると思います。
担当アーティストのライブを自分で演出する。プロデューサーとしてそこまでできるのは、社員の意志や個性を尊重してくれるポニーキャニオンならではのことかもしれません。すごくありがたい経験をさせてもらっていますし、その期待に報いるためにも、妥協せずに全力投球で日々仕事に臨んでいます
関わる作品やアーティストに惜しみなく愛を注ぎたい
アーティストに寄り添い、プロデューサーとして表現の新たな扉を開けていく彼は、日ごろどんなインプットをしているのでしょうか。
岩撫
これまでに自分が観たライブや舞台、ミュージカルで感銘を受けてメモってある演出のアイデアがいくつかあるので、それをharmoeのライブに取り入れてみることもあります。
多くの方がイメージする“声優アーティストのライブ”とは一線を画した内容にできているという自負はあります。
ファンの方が声を出せたらいいなという曲を作って、ライブで実際に観客のみなさんがシンガロングをしてくれたり、熱い反応をしてくれたり。楽曲制作時からイメージしていた光景が目の前に広がったときは、それまでの努力や苦労が報われるし、一番やりがいを感じる瞬間です
作品やアーティストの持つ魅力や可能性を最大限に引き出すための施策を日々考え実現していくために、アーティストプロデュースにおいて心がけていること、大事にしているのはどんなことなのでしょうか。
岩撫
やっぱり作品やアーティストに愛情がないとできない仕事だなと思います。常に愛を注いで、絶対に売ってやるぞという気持ちで、じゃあどうやったら売れるのか、どういうものを作ったらいいのかをとことん考える。そういう精神性みたいなものを一番大事にしています。アーティストの意志や、ファンが求めていることになるべく寄り添いたいという気持ちはずっと持っていますね。
そういう意味では、自分の好きなアイドルがもっと有名になってほしい、もっと大きなステージに立ってほしいと思って夢中で応援していたころの情熱と重なる部分はあると思っています。就職してからは推し活をしなくなってしまったんですけど、今は自分のすべてを捧げるような気持ちで担当する作品やアーティストに向き合っています。
あと、チーム内のコミュニケーションも欠かせないものですね。例えば、DIALOGUE+チームの後輩たちがSNS発信をはじめ新しい視点でいろいろなアイデアを出してくれるし、harmoeチームの先輩にあたるもうひとりのプロデューサーと一緒に意見を出し合って、お互いの得意不得意をカバーし合えていると思います。プロジェクトそれぞれでお互いを信頼し合い支え合えるチーム形成をしたいとはいつも考えていますね
担当する作品やアーティストに愛情と情熱を注ぎ、全力で向き合う。今後もその在り方は変わらず、挑戦心も途切れることはありません。
岩撫
harmoeの岩田さんと小泉さんは、声優としてはもちろん俳優としても舞台やミュージカルでも活躍していて、そういう身体表現的な部分にも秀でているふたりだからこそできる表現があるんです。この先もすごく楽しみだし、harmoeという才能をプロデューサーとしてさらに開花させたいです。
また、女性声優による音楽プロジェクト『うたごえはミルフィーユ』も担当しています。2025年夏にはアニメ化もされ、“アカペラ”をテーマにキャラクター×声優陣の成長を描くコンテンツとしての伸びしろは、まだまだあると思っているんです。
現在はアニメ作品の宣伝業務にも引き続き携わらせてもらっているんですが、ゆくゆくはキャラクタービジネスと声優さんを掛け合わせるコンテンツの開発にも力を入れて、チャレンジを重ねていきたいです
インフォメーション
harmoe
harmoe 4th LIVE「s i k i」Blu-ray
2026年1月7日(水) 発売
https://harmoe.jp/disco/
【harmoe】harmoe 4th LIVE「s i k i」Blu-ray ダイジェスト映像
2nd mini album「i k i」
好評発売中
https://www.youtube.com/@harmoe_Official
DIALOGUE+
DIALOGUE+ LIVE 2026 「Dear our Summer」
@LINE CUBE SHIBUYA
2026年8月2日(日)
https://dialogue-music.jp/live/20260802_dear-our-summer/
EP「PENTA+LOGUE」
好評発売中
https://www.youtube.com/@DIALOGUE.Official
うたごえはミルフィーユ
TOKYO MXにて毎週月曜21:00~再放送中
各配信プラットフォームにて好評配信中
https://utamille.com/anime/
楽曲はYouTubeをチェック!
https://www.youtube.com/@utamille
響け!ユーフォニアム
『最終楽章 響け!ユーフォニアム』前編
2026年4月24日(金)公開
https://anime-eupho.com/
「響け!ユーフォニアム」10th Anniversary Disc 〜みんなのストーリー〜
2025年12月24日(水)発売
https://anime-eupho.com/10th-anniversary-drama-cd/
※ 記事の部署名等はインタビュー当時のものとなります